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江戸時代からの歴史的な街並みで「伊予の小京都」とも呼ばれる愛媛県大洲市が今年度、持続可能な観光地を表彰する「グリーンデスティネーションズ ストーリー アワード」の文化・伝統保全部門で国内で初めて世界1位を獲得した。大洲城天守閣に110万円で宿泊できる「城泊」を起爆剤に観光客を集客、収益を神楽や鉄砲隊などの保全に活用、官民が連携して約半数が空き家になる危機だったという古い街並みに、にぎわいを生み出した取り組みが評価された。12月には市内で記念シンポジウムが開かれ、これまでの取り組みや今後の街づくりの在り方について市民らが話し合った。
まさに城下町のにぎわい
大洲市中心部に位置する大洲城の周辺には、江戸時代から明治にかけての武家屋敷や商家などが立ち並ぶ一角がある。NHK連続テレビ小説に登場したことにちなんだ「おはなはん通り」や、テレビドラマ「東京ラブストーリー」のロケ地、明治時代建築の銀行本店を活用した観光施設「おおず赤煉瓦(あかれんが)館」などの見どころが集まる観光スポットだ。
市の景観計画区域に指定されているこの一帯では、こうした古民家が約100軒あり、うち26棟を客室として提供する「NIPPONIA HOTEL」が観光客をもてなす。移住者や地域の若手起業家などが開業したカフェや雑貨店、土産店なども軒を連ね、休日になれば国内外の観光客を乗せた大型バスが乗り入れ、まさに城下町のようなにぎわいになる。
観光客数は令和元年からのコロナ禍でも増加傾向が続き、5年度はインバウンド客が従来の約1・5倍になったという。
同地区の活性化に取り組む一般社団法人「キタ・マネジメント」の井上陽祐さんは「取り組みを始めた当時、町は閑散としていて、こんな国際的な評価を受けるとは思えなかった」と振り返る。
殿様気分で城に宿泊
実際に、キタ・マネジメントが誕生した平成29年ごろ、こうした景観は存続の危機にさらされていた。
当時、一帯の約半数の古民家が相続や修繕費の捻出が難しいことなどを理由に立ち退きや取り壊しを検討していることが市の調査で判明。中には屋根が落ちるなど廃虚化していた建物もあったという。
市ではそれまでも、一帯の家屋修繕などに使える補助金制度を創設するなど歴史ある街並みを後世に残そうと取り組んでいた。しかし、さらに高齢化が見込まれるなか、行政だけではもはや街並みを維持するのは困難な状況になっていた。
こうした背景から、市は民間のノウハウを活用しようと27年、まちづくりの勉強会を発足。地域おこし協力隊として入庁した井上さんや地元の伊予銀行らで街並みの再生と新たな市内観光のあり方を模索するなか、古民家を改修したホテルを展開する兵庫県での取り組みに着目し、28年にその運営会社らと連携協定を結んだ。官民で10億円の事業費を捻出し、観光地域づくり法人(地域DMO)のキタ・マネジメントも誕生、街並み再生のプロジェクトが動きだした。
キーワードはサステナブル(持続可能)な街並みと観光。人が訪れることで収益を生み、それを街並み維持に還元する仕組みの構築にむけ「起爆剤」と位置付けたのが大洲城に宿泊できる「城泊」だった。
大洲城は江戸時代初期ごろの建設とされる。天守閣は老朽化のため明治21年に取り壊されたが、平成16年に日本で初めて木造で復元され、4棟の櫓(やぐら)は国の重要文化財に指定されている市のシンボルだ。
城泊では、武士の姿をした家臣がコンシェルジュを務め、宿泊時に男性は甲冑、女性は和服に着替える。ほら貝と陣太鼓による入城の儀式で城に入ると、火縄銃の祝砲や伝統芸能の神楽が披露されるなど、まさに「殿様気分」が味わえる。
宿泊料は2人1泊2日で110万円。年間売り上げのうち、6割が人件費、市への施設使用料が1割、神楽などの団体への支払いが2割となっており、集客が地域経済へ還元する仕組みとなっている。
令和2年にサービスを開始すると、その珍しさから多くのメディアに取り上げられ、今年度は40組以上が宿泊予定という盛況ぶりに。観光客が増加するにつれ、地域に出店したいという人も集まり、令和5年度までの3年間で地域にカフェや雑貨店など22店が新規出店。移住者23人を含めて132人の雇用にもつながった。
持続可能な街並みと観光
世界の持続可能な観光地を認証する非営利団体「グリーンディスティネーションズ」(オランダ)にこうした大洲市の取り組みが評価され、国内初の受賞に結び付いた。
シンポジウムでは、市やキタ・マネジメントがこれまでの取り組みを披露。地元の県立大洲高校の生徒らは、持続可能な観光に向け地域でできる取り組みとして、外国人にもわかりやすい街頭サインのあり方や、ゴミを回収して堆肥を作る「コンポスト」の実験結果などを発表した。
キタ・マネジメントの高岡公三代表理事は「今後の観光は、持続可能性が世界的なキーワードになっていく。街の魅力をさらに磨き、地域と一体になって観光客を呼び込んでいきたい」と話した。
筆者:前川康二(産経新聞)